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2026年07月16日
防災・減災

【わりとなんでも相談室 vol.3】社員が会社で被災する——それは「会社そのものが被災している」ということ

【わりとなんでも相談室 vol.3】社員が会社で被災する——それは「会社そのものが被災している」ということ

こんにちは、フジビジネス広島です。

「わりとなんでも相談室」、今回はいつもと少し毛色を変えて、経営者の方に向けた回です。防災士の資格を持つ当社スタッフが、広島の会社さんを回る中で経営者のみなさまとお話ししてきた「会社と災害」の話を、率直に書きます。

テーマは、「社員が会社で被災したら、どうなるのか」

けがや労災といった法律の話ではありません(それはそれで大事なテーマですが、今回は横に置きます)。もっと手前にある、シンプルな事実の話です。


「社員が会社で被災する」とは、どういう状況か

想像してみてください。就業時間中に大きな地震が起きて、社員が会社で被災した——。

この状況、視点を変えると、こういうことです。会社そのものが被災している。

社員だけが被災するということはありません。社屋、設備、機械、パソコン、サーバー、商品在庫、そして電気・水道・通信といったインフラ。会社を動かしているすべてが、同時に被害を受けています。

そのとき経営者に突きつけられる問いは、ひとつです。

「この会社の事業を、立て直せるか?」

準備の差は、被災後に「これでもか」というほど出ます

災害は、来ないに越したことはありません。ただ、経営者の仕事は「来ないことを祈る」ことではなく、「来たときに何が起こるかを、想定しておく」ことだと私たちは考えています。

準備をしていた会社と、していなかった会社。被災後の分かれ道を、あえて対比で書きます。

準備をしていた会社:被災はした。しかし被害は最小限に食い止めた。設備の一部は守られ、復旧の手順も決めてあったので、数日〜数週間で事業を再開できた。

準備を怠っていた会社:設備が使用不能になり、事業が止まった。復旧のあてがないまま時間が過ぎ、売上が途絶え、業績が悪化。従業員の雇用を守れなくなり——最悪の場合、廃業・倒産へ。

大げさに聞こえるでしょうか。しかし、災害のあとに会社が力尽きていく流れは、おおむねこの順番で進みます。倒すのは揺れそのものではなく、「事業が止まったまま動かせない時間」なのです。

これは体感の話だけではありません。東日本大震災に関連する倒産は、発生から5年間で1,493件にのぼりました。しかも、その内訳を見ると発生から1年目が650件と最も多く、2年目489件、3年目354件、4年目238件、5年目167件と、年を追うごとに減っていきます。つまり、震災の直接的な被害そのものより、発災直後の数か月〜1年をどう乗り切るかで、会社の生死が大きく分かれているということです。阪神淡路大震災でも、3年間で394件の倒産が発生しています。「準備の差が出る」のは、まさにこの初動の期間です。

「防災はコスト」——半分正解で、半分間違いです

経営者の方とお話ししていると、「防災はコストだからね」という言葉をよく耳にします。お気持ちはよくわかります。たしかに防災には、生産性がありません。備蓄品が売上を生むことは、一円もありません。

だからこそ、こう捉えていただきたいのです。防災は「保険」である、と。

生命保険や火災保険に「生産性がない」と文句を言う経営者はいません。あれは、万一のときに会社と家族を守るための支出だと理解されているからです。防災もまったく同じ構造です。

しかも、防災には保険にない強みがあります。被災後に保険金を受け取るには、罹災証明書の発行をはじめ、さまざまな手続きと時間が必要です。その間も、事業は止まったまま。一方、事前の防災対策は被災した瞬間から効き始め、手続きは一切要りません。「被災後にお金をもらう備え(保険)」と「被災そのものを小さくする備え(防災)」——両方あるのが理想ですが、多くの場合、後者のほうが費用も安く、失う時間も少なく済みます。

「コストをかけたくない」という判断は、それ自体は経営判断のひとつです。ただしそれは、「災害が起きたとき、事業が止まる可能性を受け入れる」という判断とセットである——ここまで含めて、初めてフェアな経営判断だと思うのです。

「やっている会社」は、それだけで信頼される

実は当社も、簡易版ながらBCPを策定しています。正直に申し上げると、BCPを作ったからといって売上が上がったとか、お客様からの信頼が目に見えて増えたとか、そういう個別の効果を実感したことは、あまりありません。

それでも、意味はあると考えています。「うちはこういう想定をして、被災したらこう動きます」と社外に発信できる——このこと自体が、外から見たとき「この会社は安心できる、信頼できる」という評価につながるはずだからです。

例え話をひとつ。深夜でも開いているコンビニやスーパーって、なんとなく信頼できませんか?それは「普通はやっていないことを、やっている」からです。BCPも同じで、中小企業の8割以上がやっていないからこそ、やっている会社は目立つし、信頼される。率先して取り組むこと自体が、静かなアピールになるのです。

そしてもうひとつ。防災に取り組む会社は、対外的な信頼だけでなく、社内で働く従業員と、その家族のことを考えている会社でもあります。人手不足のこの時代、「社員を守る準備をしている会社」であることは、働く場所として選ばれる理由のひとつになっていくはずです。

想定すること、それ自体が「BCP」の第一歩です

事業を止めないための計画を、BCP(事業継続計画)と呼びます。

「計画書を作るなんて大ごとだ」と思われるかもしれません。実際、調査ではBCPを策定している中小企業は2割弱にとどまり、策定しない理由の上位は「スキル・ノウハウがない」「人材がいない」「時間がない」です。中小企業の実情として、よくわかります。

でも、順番が逆なのです。立派な計画書を作ることがBCPなのではありません。「うちが被災したら、何が止まるか?」を経営者が想定すること。そして、それを社員に周知すること。この2つが、対策の第一歩であり、すでにBCPの入口です。

紙一枚から始められます。

  1. ハザードマップで自社の立地リスクを確認する(浸水?土砂?液状化?)
  2. 「これが止まったら商売にならない」ものを書き出す(設備・データ・仕入先・人)
  3. それを社員と共有する(「地震が来たらまず何を守るか」の目線合わせ)

ここまで、かかる費用はゼロです。ちなみに調査では、BCPを策定した企業の約7割が「従業員のリスク意識が向上した」と答えています。計画づくりの過程そのものが、会社を強くするということです。

大災害には勝てなくても、「勝てる災害」があります

正直に書きます。土砂災害で会社の建物そのものが呑まれるような大災害の前では、日頃の防災対策が力及ばないこともあります。そこは避難、つまり「命を守る行動」の領域です。

でも、床上浸水・床下浸水は、いまや「対策できる災害」です。例えば——

  • 出入口に止水板を設置できるようにしておく
  • サーバーやパソコンなどの重要機器を2階以上に置く
  • 商品や在庫の棚を床に直置きしない

どれも派手さのない、小さな対策です。しかし川の多い広島で、この「小さな備え」があるかないかは、被災後に事業を再開できる日数を確実に変えます。全部に勝とうとしなくていい。勝てる災害から、確実に勝ちにいく——それが現実的な防災だと思います。

おわりに——広島の経営者のみなさまへ

同じ広島で会社を経営する一人として、ひとつだけお伝えするなら——防災は、会社を守るための施策のひとつだということです。

以前の記事(vol.2)でも書きましたが、広島は最大震度6強の地震が想定され、豪雨・土砂災害の実績もあり、しかも大型物流拠点から微妙に遠い土地です。「うちは大丈夫」と言い切れる材料は、正直、多くありません。

当社は防災用品の販売店ですが、いきなり「備蓄品を買ってください」とは申しません。まずは、自社が被災したら何が起こるかを一度想定してみること。その上で、設備の固定や備蓄といった「モノの備え」が必要になったとき、防災士の資格を持つスタッフが具体的にお手伝いします。

「何から考えればいいか、それすら分からない」——その段階のご相談こそ、歓迎です。

次回の「わりとなんでも相談室」もお楽しみに。

参考:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2020・2025年)、東京商工会議所「会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート」(2023年)、中小企業庁「2022年版中小企業白書」、内閣府「過去の大規模災害における事業者への影響」(帝国データバンク調査に基づく集計)


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